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「……」

ワルターは久しぶりに目が覚めた感覚があった。
目を閉じる、開けるという動きがいちいち緩慢だ。
視界の斜め上の方に光源のようなものがあって、それでこんなに眩しいのかと知る。
自分が起き上がれないのはわかっていた。
何度か指先だけを動かし、首と、ある程度手首が動かせるのだと確かめたから。
痺れたものとは違う、身体全体が重くなったように動きが取れなかった。
しばらくそのまま、視線だけを這わせて鉄板を張り合わせた天井を探る。
収穫はなかった。

「……っ」

無駄だとわかっていながら、動かせる所に力を入れてみる。
先ほどより少しだけ動けたような気にはなったが、このままでは任務がままならない。
早くあいつを連れ帰って、メルネスを。

「……はぁ」

思い浮かべた紫色の少年が、自分を助けた。
陸の民である少年、それが何故。
確かあの亜人種を連れていた、それを救出したのはわかるが自分には関係がない。
わざわざ危険を冒すほど頭の浅い人間なら参謀とは言わない。
魔物を倒したばかりか、その毒にやられた自分をあんなことをしてまで助けたのは。

コンコン

「ワルターさん?起きていますか?」

急に遮られた音に多少驚き、部屋へ入ってきた自分が今まで考えていた少年を見る。
リン、と鈴を鳴らして笑顔を向ける彼から視線を外す。
陸の民に助けられた上、未だ厄介になっているなど恥もいい所だ。
ワルターの気を知ってか、ジェイは手にしたパナシーアボトルとグラスをサイドテーブルに置き、話す。

「そんなに怒らないでくださいよ、助けたんですから」

クス、と笑うように言われてワルターはむっとした。
どうして自分を知っているのかも、実は気になっていたのだが聞きたくもなかった。
どうにかしてここを出たかった。

「これ、ちょうど切らしちゃってて町に行ってたんです。飲んでください」

「……」

聞きたいことが山ほどあるのに、聞きたくない。
返事も何もしないのをいい加減気を悪くしたのかジェイは少しだけ粗野にボトルの中身を移し、
ずいとワルターに近づく。

「飲んでください」

手で頭を持ち上げて少し浮き気味にし、飲みやすいように位置を調整する。
相変わらず嫌そうな顔のワルターにグラスを突きつけ、再び笑う。
限界までグラスを傾けて零れそうな透明の液を見せつける。

「…っ」

重い決断でもしたかのようにワルターが口を付けたのを見てジェイは内心ホッとする。
飲まなければ状況は悪化するし、そうして自分のメリットはなかった。
助けたのに意味がなかったなんてことは嫌だった。
飲み終わるころには、安心した顔など引っ込めて笑顔を向け直していたが。

「しばらくすれば動けるでしょう、それまで寝ていてくださいね」

ま、動きたくても動けないでしょうけど。
そう皮肉も含めてグラスを置き、束ねた髪を少し払って背を向ける。
ワルターは口を開こうとしたが、いつもの性格の為、音は発せられなかった。
ジェイの小さめな背中を見送り、それが扉の前で止まったのを確認する。

「動けるようになったら、いろいろと聞かせてもらいますからね」

にこりというよりは意地が悪い笑顔を浴びて、何も言えない。
話すことは自分も望んでいたのに、何故だか寒気がした。

「意地が悪いなぁ」

階段を下りながらジェイ自身も苦笑していた。










2006.1.30
何と言うかもう…ねぇ?