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「わ、ワルターさんっ」

「暴れると落ちる」

「でもっというか何でっ!?」

ジェイが向かってくるワルターに気付いてどうしたのかと瞬きひとつした所で、身体が浮いていた。
見えないほどに早くワルターが自分を抱き上げ、そのままテルクェスを翼に空を駆けている。
浮く、という感覚をほとんど未経験のジェイは不安定に揺れる身体全体に神経が尖り肩にも力が入る。
跳躍してから地に落ちるときに似たような浮遊感はあるがこれはその比ではない。
下を見るように首を動かし、思ったより高い、自分が跳ぶよりも高い木々を下にしたその高さに驚く。
知らずワルターの服を掴むようにしていたのに気付いて、慌てて手を離した。

「怖いなら腕を回せ」

「えっ…いえ、あの」

高さが怖いというよりか、他人に身を任せるのに戸惑っていた。
彼が手を離せばそのままジェイは落ちる。
命を預けるのと同じなのだ。
会って数日のその人に全てを委ねるというのは難しい。
まして彼は陸の民が嫌いなのだから、自分のことだってきっと。

「……」

「うわっ」

どうしようもない手を空にしたままでいると、急にガクンと、視界が落ちた。
膝裏と背中に感じていたものが少しだけ離れる。
反射的に身を守ろうとして何かにしがみついたが、投げ出されたのはほんの1秒にも満たない。
どういうことだと抗議しようと思ってはっとする。
自分がしっかりしがみついたワルターの服、肩。

「あ…す、すみません」

ワルターはそんなことに構わず、じっとこちらを睨んでいる。
早く首に腕を回せと言っているのは、気のせいではない。
その視線に負けてそろそろと腕を持っていくと、急に彼はスピードを上げた。
どうやらそれまで、危なくないようにゆっくりと進んでいてくれたようだ。
何故こんなに優しいのだろう。
自分は彼の憎んでいる陸の民なのに、それに嫌悪していることを彼は自覚しているはずなのに。

「……どうして」

「なんだ」

「…いえ」

きっと自分の思い違いだ。
彼の行動はいつだって突拍子もなく、わからないことだらけだったじゃないか。
今度もたまたま、気まぐれなのだ。
ジェイは自分で出した答えに寂しさを感じずにはいられなかった。
何故か彼の優しさに甘えたい自分がいる。
何故か彼の行動が気になっている自分がいる。










訳もわからず彼は溜め息をつく。










「ここだ」

「はぁ」

マウリッツの庵、確かそう呼ばれているはずのここは、ちょっとした森であった。
何故こんなところに連れて来たのか聞こうとするが、ワルターは黙って前に進み出た。
手を掲げ、淡く髪を輝かす。
それが現れてきたときには既に彼は進み始め、ジェイは後についた。
ほとんど一本の道と、一つの建物しか見えない庵には水の民が想像以上にいた。
それぞれが青い衣装で動き回り、忙しそうにしている。

「マウリッツ、参謀を連れてきた」

「思ったより遅かったな」

帰ってそうそう咎められるワルターが前を向いていても不機嫌になったのがわかり、ジェイはそれに慌てて付け足した。

「初めまして、僕が今回の同盟軍作戦参謀に任命されたジェイです。早々ですがワルターさんが遅れたのには僕に責任があります」

老いた印象はあるものの、青い目と金の髪が意志を持つように輝いた水の民の長へ一礼する。
マウリッツはジェイの姿に当然驚き、まさかと口が動く。
彼はそのような反応は予測済みというように任命書を広げて見せ、状況の説明にかかった。
ワルターは二人の会話を壁際で聞きながら、ジェイの方へ視線をやっていた。

「…ということです、それから…」

「元創王国時代の、遺跡中を駆ける乗り物があったな」

ジェイが視線を迷わせながらワルターへ顔を向け、それに答えるように彼は言う。










2006.3.16
ジェイが高所恐怖症なわけはない。
わかってるけどやっぱ書きたいネタでしょー。
二人の世界にマウリッツ登場。