12
「本当、ですか?」
「嘘をついて何がある」
村の中の、桟橋をかけてある泉で一休みしていると彼がぽつりと言った。
手段がないことはない。
それは数日ジェイを悩ます戦争を避けての引越しのことだ。
毎日毎日何処かに出かけては情報を探し、案を組んでは捨て、
それでも行き詰って途方にくれていた彼を見て、ワルターは思った。
どうにかしてやりたい。
そう思ったのは、メルネス救出を早めるためだけではないと彼は確かに気付いていた。
ただその気持ちというのが、水物のように自分でもわからない、どうしようもないものだった。
「水の民が持つ元創王国時代の文明には、俺たちにも不明瞭なものが多い。
その中には、今は眠る巨大な乗り物もあったという。
それが見つかって復旧が出来れば、遺跡船の何処へでも移動が出来ると聞いた」
「……でも、それにはかなりの時間がかかりますよね?」
ジェイが心配そうに座っている状態から立っているワルターを見るので、思わず顔を背けながら付け足す。
向けた視線の先にある村の出口が眩しい。
「俺たちは既にそれを見つけている」
「!」
ぱしゃっとジェイが水音を立てる。
靴裏を静かに水面につけていたのを、驚いて身体を揺らしたことで跳ねさせたのだ。
手の甲に水が走るのも構わず立ち上がってワルターをじっと見る。
視線を動かしてこちらと交わらせたワルターは頷いてみせる。
隣りあった身体はさして大きくない桟橋のせいで近い。
じゃあ、とジェイはやはり見上げる形で目を緩める。
「それを、貸して頂けるんですね?」
「……マウリッツの許可があれば」
「!……それはつまり一度、庵へ来いと」
俯いて答えるジェイに、ワルターも自然項垂れるように水面を見る。
それは悪く言えば脅迫にもなることだ。
彼のいない間に万一戦争が始まってしまえば事は終わる。
それこそ、ジェイにとっての負けとなる。
しかしながら、打開策が他にない。
「わかりました、行きましょう」
罪悪感のようなものからか、ワルターが話を推せずに岩間からの水滴で時々揺れる鏡を見ていると、
ジェイはその沈んだ横顔に出来るだけ笑顔で答えた。
たん、とまた落ちた滴を何となく気にしながらワルターは視線で応じる。
その笑顔でまた、彼の気持ちが腹の中から突くような痛みを持ってくるのだ。
「…いいのか?」
「それしか、ありませんから」
「……」
確認も、違わない意志に無へと還る。
彼がどれほどモフモフ族というものへ固執しているかがわかる。
家族と、自ら呼んだのは何故だろうと知りたい自分がいた。
「ワルターさん後ろです!」
「はぁっ!」
黒いテルクェスが拳から連続して放たれ、エッグベアが爪を構えていた体勢から数回の後転をした。
それをジェイは苦無によって怪我を負わせ動きも止める。
さらに空中からのテルクェスがそれを仕留めた。
「次が来ます」
「わかっている」
進行方向から続々と沸いてくるモンスターを倒しながら二人が息を合わせる。
彼らが村をすぐに出て、帰らずの森を抜けてマウリッツの庵へ向かう途中、
ジェイの情報によって迷うことはなく、時間はかからないはずだったこの森で異変があった。
人型からミミックベット、果てはドラゴン系統のモンスターまでいるこの森では、縄張りの小競り合いが絶えない。
普通個々に生息しているはずのそれらが集団化して、こちらへと向かってきたのだ。
まるで行く手を阻むよう、とはこのこと、しかし二人は体力の消耗を防ぐために策を練っていた。
森を越えても、道は長いのだ。
「ブリザード!」
ジェイが敵を引き付けている間にワルターが呪文を唱える。
凍った空気が群を襲い、数を減らしていく。
残ったもので手足が凍っていればそれを突いてジェイが止めを刺す。
「雷電!」
数本の苦無で範囲をまとめ、ぐいと腕を引っ張る形で力を放出する。
地面から突然生まれた雷たちを受け、焦げて倒れていく。
広範囲に渡るものを使い効率よく戦う互いを見て、感心させられたと互いが思っているのに気付くこともない。
それでもこの戦いは計画を妨げていた。
これでは先へ進めない、彼の目的も果たせないではないか。
ワルターは結局、こうした思いに逆らえずにジェイの方へと加速した。
2006.3.6
この二人しか登場人物いないよね。
というか彼らの世界か?