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「あ……」

もぞ、と隣で何か動くのにつられて、ジェイは目を覚ました。
太陽光のないこの村では今が昼か夜かもわからないが、ずいぶんゆったりと寝ていた気がする。
もう少しだけぼーっとしていたい気分に押され、寝返りをうって布団に顔をつけると見覚えがある金色。

「……」

枕元、というかほとんど頭がくっつきそうになるくらいにワルターがいた。
最初何だかわからなかった動くものは彼だろう。
覚えている限りでは少し前まで逆の立場であった。
もう体調はいいのだろうか、彼がウェルテスで買っておいた一般的な長袖のシャツ姿。
それならすぐに此処を出て行くと思っていたが、予想が外れた。





彼は何故留まっているのか





「…あの」

「!」

少し躊躇ってから仰向けの身体を上だけ捻り、片腕で起き上がった状態で彼に手を置く。
肩口にそっと触れただけで彼は跳ね起きた。
そのあまりの速さに手が払われそうだったが。

「おはようございます」

「……」

皮肉った笑みにならないよう、出来るだけ自然にしたつもりだが、彼には十分だったのか
ばっと立ち上がって早足に部屋を出て行ってしまった。
悪かったかな、と少し反省し始めたところ、下から何か声が聞こえて次いでピッポが駆けてきた。
その後ろにはワルターが付いてきていた。

「ジェイ、大丈夫キュ?」

どうやら彼はピッポを呼びに行ったらしい。
だがこの狭い家で声が聞こえなかったのは、彼が喋らなかったからだろう。
どうやら数日でピッポはワルターとの意思疎通に成功したようだ。
ぺ、とふわふわした手が額に伸びてきたのを見てつい身を屈める。
暖かな感触とくすぐったさの混ざるいい気持ちに、頬も緩む。
若草がふんわりと触れるのと似ていた。

「ただ寝不足だっただけだよ」

「あなどっては駄目だキュ、ちゃんとご飯食べるキュ」

そうしてまた下へと行こうとこちらに尻尾を向けると、一度ワルターを見上げた。
またこちらへも向く。

「ワルターさんが付きっきりで、ピッポたち助かったキュ」

「え?」

ペコリとお辞儀して彼が去った後、ジェイは立ったままこっちを見るワルターに話しかけてみた。

「あの、ご迷惑をおかけしました」

「……別に」

言葉足らずだが、多分照れているのだろう、腕組をして壁に寄りかかった。
下のジーパンも彼の身長にあっている。
そんなことはいいのだが、どうやら自分は一日ほど寝ていたようである。
確かに最近は依頼と引越しを両立していたし、ワルターの看病も出来る限り引き受けていた。
これも仕方ないことだろう。

「おい」

「はい?」

今度はこちらが黙っていると、向こうが急いたように呼ぶ声がした。
いつの間にかベットの横に座っていて、起き上がった状態でも少し目線の高いのに気付く。

「…何故、助けたかを聞くのはやめる。代わりに何故来なかったかを聞く」

「来なかった…あぁ」

この間思い出したことだが、自分は作戦参謀役として、ミュゼットさんから依頼を受けたのだった。
ヴァーツラフ軍との戦いが始まることに村の皆を案じる気持ちが大きすぎて、
あの日噴水公園で水の民の迎えが来ることを忘れてしまっていた。
きっと彼が迎えだ。

「すみません、いろいろ忙しかったので忘れてしまったんです」

「……」

眉がぐぐ、と引き締まる。
そうか、彼がここに来たのは自分の所為か、彼がモンスターに襲われたのも。
忙しいというのは言い訳だ、これは自分の罪過。

「…メルネスの救出にお前が必要だ、ついてきてもらう」

それは当たり前のことだ。
今回の依頼の重要性は言われなくともわかっている。
でも、ジェイは申し訳なさそうに俯いてから小さめの声でまた謝る。

「今はまだ、僕は行けない」

「…何だと?」

これだけは譲れない。
だってここには、自分の家族がいる。
こんな自分を拾って温めてくれた彼らがいる。

「身勝手なのはわかっています、でも……お願いです。もう少しだけ待ってください」










2006.1.28
あは、もう好きにしてしまえ。
ピッポとキュッポが間違っていたので修正。