― 03 マリオネットは哀歌をオドル ―







































とてもじゃないが来る気になれなかったダリルシェイドに少女は来た。

何故か。

それは至極明白、脅しだった。





「あの、すいません七将軍の団はこちらでよろしいでしょうか?」

「はいはい――ってあれ?坊主、何か用かい?」

また性別間違われたよ…なんて思いながらも少女は首をかしげて手を出した。

「これを、フィンレイ・ダグ様にお取次ぎ頂きたいのです。

先のモンスター騒動で生意気にも特攻を仕掛けた娘、と申し上げればおわかりになるでしょう」

故意に娘という言葉をだしながら願い出れば、変な顔をしながらも伝達役をだしてくれたおじさん。

興味深そうに身を乗り出して聞いてくる。

「悪かったなお譲ちゃん、それよか特攻ってのはどういうことだい?」

これだから来たくなかったのに。と呟きながら買い物の時も町中の人に寄ってこられたのを思い出し、げんなりする。

おかげでアルの荷物が通常の3倍くらいだ。

申し訳ないから帰りは歩くことにした。

「譲ちゃん?どうやら許しが出たみたいだぜ?」

はっと顔を向けると門扉を開けて兵士が待っていた。

「ありがとうございます」

伝達役がおじさんに話をしている―どうせ私のことだ―のを横目につかつかと門をくぐる。

「王が謁見をお求めです、こちらへ」

予想していたけれどこれだ、帰りはアルだけでは足りないだろう。

と、どうしようか策を練り始めたところに後ろから声が流れてきた。

「ようリオン、また見学に来たのか?」

「……稽古も」

少年のような声がこの場には似つかわしくないと不思議だったが、兵士は自然に歩いていったので振り返らずに追った。

後ろからさっきの少年も来ているようだ。

兵士が振り返って笑顔で言う。

「先日はこの国の為にありがとうございました、と城の皆からも感謝の声が絶えませんよ」

「いえ、何もしていませんから」

本当にこの手の姿勢は苦手だ。ただ自分の為に動いた結果に過ぎないのに。

「謙遜なさらずとも、皆存じております」

ええいもうどうでもいい…何か気をそらそうと先程の少年(仮定)を使うことにする。

「そういえば…」

「着きましたよ」

……なんて素晴らしくタイミングの外れる私なんだ…。

そのまま王のいる広間へ入るとやっぱり逃亡してでも来なきゃ良かったと思わざるを得なかった。

拍手喝采、それこそ宴でも開いているかのような賑わい。中央には王がででんと腰を据え、その両方に七将軍団が見える。

兵士やメイドも多々集まり、花束なんぞ抱えている。

「よう、よく来たな」

「…恨みますよ」

レイノルズ様がにっと笑いその隣にはロベルト様がいる。

足は今すぐにでも逃げ出そうと必死なのに、2人が肩を掴んでいた。










結局そのまま王の御前へ運ばれた私は片膝をつきこうして挨拶している。

「初めまして、セインガルド王。ところでこの宴は如何なされたのでしょうか?」

「なに、ワシが知らぬとでも思っているのか。そなたの行動には誰もが敬意を払うに値する。これくらいは当然だろう」

「何のことでございましょう?私は今日七将軍フィンレイ・ダグ様に謁見を申し出たに過ぎないのですが?」

「まぁまぁそう言うな、いいじゃないか、君の行いはもう町中に知れている。それなのに何もしないのは国としてどうかと思わないかい?」

一歩も譲らない私にフィンレイ様がずずい、と出てきて言った。

この策士め。

広めたのは誰だ。

「……もう好きにして下さい」

観念するしかないと思い、王に視線をやった。

「まとまったところでな、お主の名前を、まだ誰も知らんのだが?」

面倒を極力避けるため、無礼とは思いながら出さずにいたことだった。

「名乗っていませんから。申し遅れました、私は。ここより西の森に住む者です」

「そうか、では、早速だが報酬は…」

瞬間、くわっと凄みのある目を広げて瞬殺するかのように王を遮る。

「結構ですもう本当に」

即答、所要時間0.2秒。

「「「「…………」」」

一瞬呆けてしまった一同は王の咳払いで目が覚めた。

「だがな、さっきも申した通りこのまま帰したら…」

「王の面目なんかより国の復興にお金を使ってください。援助金としてでも民にその有り余るものを分け与えてください。

結果として苦しむのは民だけではないのですから」

ああまた変なことを自分は言い出した。逃げたいだけなのに本当に。

何人かの視線が恭しいと感じられるのはきっと気のせいだろう。

「…………わかった。お前への報酬は国への寄付、でどうかな?」

「何でもいいです」

この場から離れたい一心で承諾したのを王はにこりと笑って答える。

「成立だな、まぁ、これからも城への出入りは自由だ。それにまだ11と聞く、家族面々にもぜひ伺いたいな」

どうなんだ?という顔で―まるで孫が出来たように喜ぶ爺の顔だ―聞いてくるのが煩わしいが、困ることがあった。

「……一人暮らしです」

そう言ってしまったのを、今は後悔している。











































あの後、11の一人暮らしに大いに驚いた王―その場にいた一同含む―は多大な質問を繰り返し、

無職であることを知ると即座に控えの兵に言い放った。

の住まいと職をこの国に手配しろ』

焦って拒否を申し出たにも関わらず、決定事項とでも言うかのように話は進んでいた。

その時名乗りを上げたのが謎の人物、ヒューゴ・ジルクリスト様。

あのオベロン社の総帥―つまりは最高指揮官―だった。

仕事内容は剣の指南、一つ下の少年らしい。

いくらなんでもその少年が嫌だろうと思ったのは私だけのようだ。

そんなこんなで住み込み指導を職にした(された)私は少しばかりの準備を家で整え、愛馬アルとともにヒューゴ邸へ向かっていた。

この雑木林を抜ければダリルシェイドが見えるだろう。

朝か、昼前には着こうと思っているが急ぐ必要はないし、今はまだ暗い、夜明け前なので慎重にいく。

夜行性モンスターはこの地域には分布していないし、人もいないのは承知なのだがなんとなく、いつもより騒がしいのに気付いた。

「アル、何かいる」

さっと飛び降りて待たせ、姿勢を低めに呼吸を整える。

しん、と続く林の音域から断続的に低い音が混じった。

何かが木を切っている、それも凄い勢いで。

段々と近付いているそれにアルをゆっくり後退させながら自分は前に出る。

ズゥン、とまた近付いた気配に剣を抜いて構えると、それから音が聞えなくなってしまった。

倒された木から飛んだのだろうピピッと一匹の鳥が舞う。

それからしばらくの沈黙を不審に思ってそっと近付いていくと、明るんだ空にいきなり声が響いた。

「なぜだ……?どうして助けに来ない。子供が傷ついて、こんな……こんなひどいことになっているのに、

どうして見捨てるんだっ!」

いつか聞いたその声。そう思うより悲痛な音色に、何故か心が揺れた。

何かを嘆き、何かを願い、何かを求めるような、以前何処かで聞いたような。その音吐は。

放心してしまった身を浮き上がらせた、何かが倒れる音、押し殺した泣き声。

ゆっくりと目の前の草を分けて見えたのは、剣を手放し地に伏して泣く華奢な少年だった。

近くの鳥の巣―先程の鳥のものだろう―から小さな卵が1つ、投げ出されて殻が割れているのが見える。

締め付けるような何かに呼吸を乱され、上手く言葉が出ない。

声を掛けられずに、そのまま朝が明けていった。








































ガサ。

はっと気付いて濡らしたままの顔で前を向くと、見知らぬ少年が―多分年下だ―顔を歪ませてこちらを見ていた。

反射的に剣をとり、見られた恥ずかしさで何も聞かずに切りかかってしまう。

気が動転していたからなのか、それはあっさり避けられ少年は我に帰ったかのように距離をとった。

「きさまっ!!」

「どうしたんだ?」

何故こんな場所に、よりによってこんな時にと怒鳴ろうとすると、先に言われた。

今だ視界がぼんやりなのに気付いて慌てて目を擦る。

やっと気持ちが落ち着いてきて、恥ずかしかったのは変わらなかったが、状況の把握ができた。

「……」

整理してみても何もかもが自分の非で、どうしたらいいかわからなくて俯く。

「どうした?」

いつの間にか覗き込む少年の目が、先程と同じで悲傷しているのに気付き、こちらが聞きたくなった。

少年が手に持っているのは、先程自分が殺めた、誕生することの出来なかった生命。

「っ」

身を引いて涙を堪えるために力任せに目を擦る。

赤くなろうが痛かろうが、人に泣き顔を見せるくらいならどうにでも我慢できるはずだった。

「やめろ、我慢しなくたっていいから」

ひんやりと冷たい彼の手が、妙に優しく手のひらを流れ、その言葉が欲しかったというように、また雫が落ち始める。

「大丈夫、誰も見てないから」

そっと見ず知らずの、背丈もあまり変わらない少年に抱かれて、そのまま僕は意識を落とした。

決して嫌ではなかったと思い出したのは、しばらく後になってからだ。











「ぅ…………」

なんとなく、意識が浮上して瞼が開く。

視界は白かった。

布が乗っているのが感じて取れて濡らしてあるそれを取ると、その向こうにはさらに空ではなく黒い毛並みの馬の顔があった。

「っ!?」

何がなんだかわからない僕にその馬は鼻面を寄せてきてその目が優しかった。

敵意もないそいつを撫でてやると答えるように目を閉じる馬に自然と顔が緩む。

「アルーって、君、起きたんだ」

少し身を起こしていた視界に川がありそこから先程の少年が大きめの布を持って走ってきた。

「お前……」

「勝手に此処まで運ばせてもらったよ、その剣も一緒に。どっか痛くない?」

はっと腰元を見ると鞘ごとなくてシャルは自分の横に静かに立てられていた。

取ろうとして手を伸ばすと、指に包帯が巻かれているのに気が付く。

知らぬ間に木の葉で切った所だ。

「これ……」

「手当てさせてもらったんだ」

そう言いながら擦り寄るアルと呼ばれた馬を布で拭いている。

「気持ちいいだろ?」

にこにこと笑って、さっきのことなど知らないかのように振舞う彼になんだか腹が立った。

「なぜ……何故何も聞かない!?あんな愚かしいことを見ておいてっ」

ほけっとしたように彼が逆に聞いてきた。

「何が?愚かしいこと?」

「さっきのあれ……っ」

しらばっくれるつもりなのかと睨みつけると、逆に氷を思わせるような薄い瞳で睨まれた。

「何かを思って泣くことは、愚かしくない。それが大切だから泣けるんだ」

「………」

曇りのない、清められたような音に鼓膜が震え何も言い返せなくなった。

それさえも、自分には手に入れられることのない隔てられたものだと思ったから。

風が吹く。

渇きすぎた自分をゆっくりと砂塵に変えていくような、嫌な風。

しかし彼はしばらくするとふっと表情を変えて、ふんわりと微笑んだ。

「なんて、偉そうでごめん。君には君の思いがあるんだから、口出しはしないよ」





ただ、あまりに悲しげに聞くものだから、言葉を届けたかった





「何で…」

反射的に言葉がでてくる。

「ん?」

「……いや」

一瞬だけ、はっとするくらいその瞳が揺れ動いたのを見て、胸に重りが乗ったような気分だった。

何故他人事なのに、そんなに泣きそうになるのか。

「?……そういえば、君はダリルシシェイドの人?」

「そうだ」

話題の転換は気を遣ってなのだろう。

ここには住民はいないし、僕の服装からも大きな街にいることはわかるはずだ。

「そろそろ送っていくよ、体調もよさそうだしね」

いつの間にか鞍をつけた馬に乗って手を差し出している。

「………」

手を借りずとも乗れる。といいのだが彼もいるのでホーンには頼れない。

かといってそのまま飛び乗れるほど背の高さもないので、仕方なくいつまでも待ちそうなその手をとった。

冷たく細いそれに一瞬留まり、だが体温はすぐに同化し始める。

足掛けを借りて地を蹴ると、ぐ、とあまり力を込めていないはずのに何故だかすぐに引き上げられる。

とても彼の力だけに思えなかった。

それくらい、力強いものだった。

「そうだ、名前は?」

即席の座り場所に落ち着いて握った手を離すと彼が聞いた。

「人に聞く時はまず…」

。こっちはアルサール・ベフェロク、アルでいいって」

人の話は最後まで聞け、とか馬と話せるのか、といくらか残しながらも僕も名乗る。

「……リオン・マグナス」

「そっか、よろし……?」

不自然にの言葉が止まって、こちらを振り返る。

「オベロン社総帥ヒューゴ・ジルクリスト様の御子息?」

「え…?」

何かいけなかったか?

固まったままのに眉間に皺を寄せる。

「………すいませんでした。御子息とは知らず失礼な物言いを」

「何だお前は。いきなり態度が変わって」

何か嫌な予感がする、多分ヒューゴ絡みだ。

「私、この度貴方様の剣の指南を受け賜りました者です。以後、御見知り置きを」

「………はぁ?」

こいつが僕の剣の師?有り得ない。

あってたまるか。










































マリオネットは哀歌をオドル、終。


2005.2.11
修正 2005.6.22

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