― 02 騒乱の予感 ―

































「アルっ」

大路へ着いた少女は宿屋の前の木の影にいた馬―黒一色で優しい目を向けてくる―を見つけると無事を確認する。

嬉しそうに触れる主人に目を向け道の中央に集まっている隊やモンスターたちを指す。

「うん、そうなんだ。だからアル、もう少しだけここにいてな、すぐ片付けてくるから」

身を隠すようにしたのを見とめてから、少女は改めて、核と呼ばれた二階建ての家に匹敵する大きさの熊のモンスターを観察する。

「こらっ民間人はすぐに非難をっ…」

兵士たちの攻防は既に始まっていた。逃げられないように四方を兵で囲み、それぞれ最前線に指揮官が立っている。

放たれる弓を何ともなさそうに払い咆哮をあげるモンスターに、ビリビリと刺激される。

まともに渡り合えないのは既知のことなので七将軍たちも困惑しているようだ。

一角に、身分の高そうな連中が多いのを見つけて少女はそこへ寄る。

「どうしたものか…フィンレイ、ルウェイン将軍からは?」

「向こうも手を拱いているようだ、あれだけでかいと、火も怖がらない」

「燃やしたら、いくら大きいといっても獣ですし、焼き殺せるのでは?」

「うむ、それもそうだが、少しの火種では……ん?」

フィンレイ・ダグとロベルト、レイノルズは幼い声を不審に思った。

「何でここに子供がっ!?」

「おい誰かっこの子を非難させろっ」

「親と逸れたんだね?もう大丈夫だよ」

せかせか指示を飛ばすレイノルズのマントを引っ張って黙らせ、聞いて下さい、と言う。

フィンレイは何だ?と優しく言った。

「大量の油を用意出来ますか?民家の二階から落とすよう準備して下さい、

それから火矢を弓隊に持たせて。動けなくなったらやって下さい」

「何を言ってるんだい?」

フィンレイは精神年齢の高そうな喋りの子供に不思議がりながら笑顔でいる。

ロベルトが思い出したようで先程の説明を彼らに始めた。

「それは、どうも我が兵を助けてくれてありがとう。でもここは危ないから…」

「そんなこと言ってる場合ですか、今も民が危機に晒されているのでしょう?駄目元で私に任せてくれませんか?」

「しかし、それをやるなら我々が……」

「私の行動を見て判断を下せる有能な指揮官がいるんです。失敗も考えて兵の配置を変えなくては」

恐らくフィンレイが今ここにいる中で最高指揮官と成り得るだろう、そしてその命令を兵に伝え従わせる地位のある者も入り用となる。

となると、特攻を仕掛けられる能力があるのは、全く関係の無いこの、通りすがりの少女だけだった。

「…頼めるか?」

「フィンレイっ」

非難の色を隠さずロベルトとレイノルズが言い募る。

「わかっているさ、だが他に手はない。それに、この子ならきっとやってくれるだろう」

「初対面で何がわかるんだっ」

「勘」

「〜〜〜〜〜っ!!!」

にっこりとフィンレイを見上げ少女が続ける。

「まとまったようですので早速お願いします。私はむかって右の民家二階から切りかかります、

数秒は止められると思うので急いで下さい。それからはあなた方の専門でしょう」

「ああ、わかった。幸運を」

こうして、少女による作戦が展開されようとしていた。












































警鐘の鐘が、作戦開始の合図として響かされる。

同時に兵士たちが吼える。

今だ身を振って矢を払う巨大なモンスターはいきなりのことに目を見張っているようだ。

足元に群がるように矢が放たれモンスターの注意が降下する。

瞬間、ある民家の二階の窓に立つ者が助走もつけず跳んだ。

一振りのまるで透明な青い剣を掲げた少女は、信じられない脚力で離れたモンスターの頭部を目指す。

側面から後頭部を狙う剣を右肩から全力で振る。

「だあ
―――――――っ!!!!」

速くて見ることの出来ない刀身が光を帯びて長さを増した。

そのまま打ち込むと衝撃が走る。

切り落とすなど初めから不可能、けれどその刃は肉に食い込み頭蓋に振動を与えた。

少女の方もビリビリと手に痺れを受けて弾かれる。

「っく!!」

「今だ!注げっ!!」

フィンレイの命に従い用意された油は傾いたモンスターの巨体に注がれた。

脳震盪でも起こしているのだろうモンスターの方はなす術なくそれを受け、だが足を踏ん張って転倒を防いだ。

途方も無く大きな咆哮で怒りを示す。

「「て
――――――――っ!!!」」

ロベルトとレイノルズの号令で間もなく火矢が無数にモンスターを襲った。










「民家などへの被害を報告しろ、ルウェイン将軍への伝達は返ったか?」

「日が暮れる前に終わらないと後で厄介だ、動ける者は手伝え」

「残党は粗方片付いたか?門にいる奴らにそれぞれ被害の報告をさせろ」

せかせかと片付けに追われている七将軍たちは落ち着くと一箇所に集まった。

「大丈夫か?」

「ええ」

あの後バランスを崩したまま落下していった少女は、左手を少し痛めながら着地した。

ちょっとだけ兵士に手伝ってもらいながらもう帰る準備をしている。

「おいおい、君はこの国を救ったんだぜ?祝杯を受けるべきだろう」

「そうだ、このまま帰すのでは我々の常識が疑われる」

「いえ、私は何もしていない、私はいなかったということにすれば、話は別です」

笑顔でいながらも断固拒否の意思を表す少女に苦笑もでず唖然だ。

「何も国家会議にかけはしないよ、王からの御礼を受け取ってくれれば」

「それがいらないから、代わりに帰してくれと言うんです」

「「「………」」」

中々に頑固なこの少女に負けて、フィンレイはせめてと言い出す。

「これを受け取ってくれるかな?」

ヒョイを自分の首から外した首飾りを、小さな頭に通す。

繊細なデザインのそれは人目で安物でないとわかる。

少女は困ったようにしながらもちゃんとお礼を言う。

「あっずりーフィンレイ、じゃあ俺は…」

見ていたロベルトがずいと出てんーと考える。

「仕方が無いからまた来た時に祝おうか」

いつの間にかレイノルズが少女に紙片を渡している。

『七将軍認定 城内入出許可証』

「……いえ、あの」

次に来た時に城に行かねばならないよう仕向けられて返品を請う少女だが、ナイスタイミングでロベルトが出る。

「じゃあ俺はこれ」

「ん?」

何やらおでこに軟らかいものがあたったのを感じて不審がるが遅かった。

「「「なっ」」」

いわゆるでこちゅー……ロベルトの得意技(嘘)であった。

「これで俺のもんね」

「勝手に触れた上決めないで下さい」

ごしごしごし。きれいに拭う少女はこれ以上は懲り懲りとばかりに相棒に跨った。

(もうこの国で買い物出来ないかも)

なんて思いながら後ろを向かせ、それじゃとさっさと去ろうとする少女に今頃彼らが大事なことに気付く。

「あ、名前聞いてない」

「あー…あっ!?」

「いいんじゃないどうせまた来るんだし」

言い出しっぺのロベルトが気楽に流す。

「来なかったら?」

「いや、来るだろう」

確信深い物言いでフィンレイが呟く。

「根拠は?」

「勘」










結局少女はこの後他に近くの国が無いので渋々こそこそ入国したのだった。












































騒乱の予感、終。


2005.1.24


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